障がい者(障がい児)施設の仕様
- estyleishii
- 2022年5月11日
- 読了時間: 6分
更新日:11月24日

障がい者(障がい児)施設の建築では、一般的な医療・福祉施設とも異なる「特性に応じた環境づくり」が求められます。
利用者の障がいの種類や程度は多岐にわたり、また精神面・身体面での反応も人によって大きく異なります。
だからこそ、建物そのものが安全装置となる設計が重要です。
弊社の設計仕様に基づき、知的障がい者施設等の設備や仕様をベースに、2025年時点の最新動向も踏まえたポイントをご紹介します。
障がいをお持ちの方々は、身体障がい、精神障がい、知的障がいなど、障がいの種類やその程度がさまざまです。
その施設に応じた仕様にする事によって、利用者と施設運営側が共に使いやすく、快適な環境になります。
障がい者施設は高齢者施設と同様に、利用者の安全性を第一に考えなければなりません。
目次
・水栓金物の選定
・寝室の照明 (光の質を整える)
・室内壁の仕様 (破損対策と安全性)
・床の仕上げ (安全性・クッション性・メンテナンス)
・2025年の新トレンド 感覚過敏(センサリー)への配慮
・見守りしやすい間取りと動線
・ICT・見守り機器の活用
・障がい児施設(児童発達支援)の仕様
障がい者施設の室内ドアの仕様
施設によっては堅牢な鋼製建具を使うところもありますが、重量があるので、ケガなどのアクシデントが起こりやすいです。
また、軽量の鋼製建具は表面が凹みやすく、なにより鋼製建具の持つ重量感が施設っぽい感じになることは否めません。
おすすめするのは、堅牢性を高めた木製フラッシュドアです。
既製品の木製建具では強度は低く、障がい者施設には不向きかもしれません。
施設に使う木製建具はフラッシュ戸というドアの形の木枠に合板を貼る扉がほとんどです。
そこで以下のような仕様であれば障がい者施設の室内ドアとして相応しいものになります。
・厚みのある合板を採用
・木枠の桟ピッチを細かくして強度アップ
・角の面取り加工で衝突時のケガ防止
・ソフトクローズ金物を採用し、指挟み事故を予防
鋼製建具のような「施設的な印象」を避けつつ、必要な耐久性も確保できます。
障がい者施設では堅牢で温もりのある木製建具をおすすめします。
照明にふさわしいスイッチ
知的障がい・精神障がいのある利用者の中には、スイッチを頻繁に操作してしまう方がいます。
昼夜逆転になるケースもあり、トラブル要因となることも少なくありません。
この場合は通常の押すタイプのスイッチではなくて、平たい棒を挿して制御するスイッチ、具体的には 埋込キースイッチ または 埋込タブレットスイッチ に変換すると解決します。

埋込キースイッチ
細い穴に平たい棒状のキーを差し込むタイプで、利用者が誤って操作することを防ぎます。
水栓金物の選び方
洗面や手洗い場での水栓を出しっぱなしにしたり、中には水をひたすら飲んでしまう方もいたりします。
一般的な手動の蛇口ではこのような事が起きるので、障がい者施設では自動水栓にするとこのような問題を解決できます。
・節水性が高い
・閉め忘れ防止
・温度設定を固定できる
施設運営の負担軽減にもつながりますので、施設の運状況に応じて設置するのが良いでしょう。
寝室の照明(光の質を整える)
個室のベッド上の照明はダウンライトやシーリング照明ですと、横になったときに目に直接光源が入り眩しいので、ベッド周りだけでも間接照明にすると障がい者は安心します。
これは、障がい者だけでなく、健常者の寝室でも同様です。
そのため寝室では、
・間接照明
・拡散光のブラケットライト
・調光機能
を採用すると、利用者が安心して休むことができます。
室内壁の仕様(破損対策と安全性)
精神障がい施設や知的障がい者施設で、壁に当たったりして壁が破損する場合があります。
通常の介護施設などでは石膏ボードで12.5㎜厚のものを使いますが、強く当たったりすることで破損しやすいため、以下の仕様をおすすめします。
・高強度石膏ボード
・耐衝撃下地(構造用合板+ボード)
こちらの仕様とすることで、破損リスクを大幅に下げることができます。
結果として、利用者のケガ防止・運営側の修繕コスト抑制にもつながります。
床の仕上げ(安全性・クッション性・メンテナンス)
何かのきっかけで転倒するリスクを考えると、床はクッション性のある材料が良いです。
また、食堂、トイレ、脱衣室などでは何かをこぼしてもすぐに拭けるメンテナンス性に優れた特性を考慮した仕上げが求められます。
・長尺塩ビシート+アンダーレイシート(転倒時の衝撃吸収)
・防滑・防汚・耐薬品性の高い床材
・水濡れしても滑りにくい表面テクスチャ
トイレや脱衣室など汚れがつく可能性のある場所では、防汚、消臭、耐薬品性などの高機能床シートが良いでしょう。
長尺塩ビシート自体は固いのですが、その下にアンダーレイシートというクッション性のある下地シートを敷設すると転倒時のアクシデントに対応できます。
メンテナンス性と安全性のバランスをとりながら素材を選定します。
2025年の新トレンド 感覚過敏(センサリー)への配慮
近年、ASD・ADHDなど感覚特性への対応が厚労省の指針でも重視されています。
刺激を抑えた安心できる空間づくりは、障がい者施設ではほぼ必須になりつつあります。
主な配慮ポイント
・調光機能付き照明
・拡散光で眩しさを抑える器具
・音の反響を抑える天井吸音材
・歩行音を吸収する床材
・刺激から離れられる「セーフスペース」「静養室」
日常生活で、行動の安定やパニック軽減に大きく寄与することとなります。
見守りしやすい間取りと動線
最近の施設運営では、利用者の安全面配慮から「見守りのしやすさ」が特に重視されてきています。
・死角をつくらないレイアウト
・居室ドアに採光窓(安全ガラスまたはポリカーボネート板)
・夜間巡回の最短動線
・裏動線(スタッフ用サブ動線)の確保
・廊下幅を広げ、行動を観察しやすくする
スタッフの負担軽減と事故・トラブル防止のどちらにも効果があります。
ICT・見守り機器の活用
最近は障がい者施設に関わらず福祉分野では、ICTの導入が急速に進んでいます。
・ベッドセンサー(離床・呼吸・心拍)
・AI見守りカメラ(プライバシー配慮型)
・温湿度・CO₂の自動管理
・スマートキーによる開閉履歴管理
・アラート通知システム
AIカメラには技術的な限界やプライバシーリスクなどのデメリットがありますが、技術の進歩は急速に発展しており、施設運営には欠かせないものになるかと思います。
これらの設備は夜間の事故防止やスタッフ不足の解消に寄与し、導入事例は増加傾向なってきてます。
障がい児施設(児童発達支援)の仕様
障がい児施設では「発達支援」「学習」「遊び」の3つが安全に共存する環境が求められます。
そこで重要なポイントは下記の通りです。
・感覚統合(S.I)スペース
・ブランコなど器具用が設置できる補強天井
・1人で集中できる半個室ブース
・行き止まりをなくす回遊動線
・音・光の刺激を抑える照明計画
子どもの発達特性に合わせたしつらえで、過ごしやすい療育空間を提供することが大切かと思います。



