認定こども園・保育園・幼稚園の音環境対策 ― 日経新聞も報じた【反響音・残響時間】が子どもの成長に与える影響 ―
- estyleishii
- 4 日前
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更新日:2 日前

2025年11月12日付の日本経済新聞朝刊に
「保育施設の反響音が子どもの成長に影響する可能性がある」という記事が掲載されました。
保育園や幼稚園は、子どもたちが一日の大半を過ごす場であり、安全性や快適性については多くの施設でさまざまな工夫が行われています。
しかし、音の問題については、日当たりや換気に比べて語られる機会が多くありません。音は“見えない存在”であるため、つい後回しにされがちです。
今回の記事は、まさにその「見えない環境」が、子どもたちの日常にどう影響するのかを改めて問いかける内容でした。
目次
・日経新聞が報じた「音環境」が抱える課題
・海外は【数値基準】を数値で管理している横浜市の保育園で実際に起きた変化
・横浜市の保育園で実際に起きた変化
・大人と子どもでは「聞こえている世界」が違う
・音の反響が子どもの成長に与える影響
・日本建築学会が国に求めた改善内容とは
・保育施設で使われる主な吸音材の種類
・音環境の改善は「保育の質」と「働きやすさ」に直結する
・見えない環境にも配慮した、子どもにやさしい園舎づくり
日経新聞が報じた「音環境」が抱える課題
記事によると、日本建築学会は、保育園や幼稚園などの保育空間における反響音が子どもに負担となる可能性を懸念し、国(こども家庭庁)に対策を求める要望書を提出する方針を示しました。
海外ではすでに、子どもが過ごす施設内の音響環境について数値基準を設ける国も多くあります。
しかし日本には、残響時間に関する公的基準がありません。そのため、園ごとの環境差が大きくなりやすく、必要な対策が見過ごされてきた側面があります。
海外では【残響時間】を数値で管理している
世界保健機関(WHO)は、保育施設や学校の残響時間を 0.6秒以下 が望ましいとしています。
残響時間とは、音が鳴ったあとにどれくらい響き続けるかを示す指標で、短いほど聞き取りやすく、会話が成立しやすい環境になります。
欧米ではこの基準を取り入れ、子どもが落ち着いて過ごせる空間づくりを進めています。
一方、日本ではこの基準が存在しないため、同じ規模の保育室でも「よく響くところ」と「ほとんど響かないところ」が混在しているのが現状です。

横浜市の保育園で実際に起きた変化
日経新聞の記事では、横浜市内のある保育園が行った音環境改善の取り組みが紹介されていました。
この園では、数年前に保育室やホールの天井へ吸音パネルを取り付け、室内の反響を抑える工事を行ったそうです。
実際に運用を始めてみると、保育士が以前のように大声を出さなくても子どもとやり取りできるようになり、活動中の子どもたちの落ち着きも増したといいます。
園長先生は「思っていた以上に室内の響きが大きかったことに気づかされた」と述べており、その後も保育士同士の声掛けがスムーズになるよう、コミュニケーション機器を導入するなど、音環境への配慮を継続しているとのことでした。
この改善例は、特別な大規模改修を行わなくても、適切な吸音材を取り入れることで園内の環境が大きく変わることを示す分かりやすい事例と言えるでしょう。

大人と子どもでは「聞こえている世界」が違う
音環境が見過ごされてきた背景には、大人と子どもの【可聴範囲の違い】があります。大人は年齢とともに高い音が聞こえにくくなり、可聴範囲は 20Hz〜15,000Hz前後 にまで狭まるとされています。
一方で、子どもの可聴範囲は 20Hz〜20,000Hz と大人より広く、特に高周波の音に対してとても敏感です。そのため、大人には気にならない「キーン」とした反響音や、声の尾の部分(残響)が、子どもにはしっかり届いてしまいます。
言い換えれば、
・大人 :気にならない
・子ども:常にざわざわして落ち着かない
という構図が起こりやすいのです。
これは、大人が音響の問題に気づきにくい理由でもあり、子どもがどんな音を拾っているのかを理解しておくことが、音環境改善の第一歩となります。
音の反響が子どもの成長に与える影響
反響音が多い室内では、子どもたちは言葉の輪郭をつかみにくくなり、意味を理解するまでに余計なエネルギーを使うといわれています。
その結果、集中が続かない、活動中に疲れやすくなる、といった状況が起こりやすくなります。
全国の幼児施設からは、
・会話が聞き取りづらい
・子どもが活動に集中しにくい
・職員が頭痛や喉の痛みを訴える
といった相談も寄せられており、中には室内で長時間過ごすことが難しくなったケースもあると報告されています。
子どもたちが言語を獲得する大切な時期にある以上、音環境は無視できないテーマです。

日本建築学会が国に求めた改善内容とは
日本建築学会は2020年に、保育施設の残響時間を 0.4〜0.7 秒 とする推奨値を提示しました。しかしこの数値は【推奨】の範囲にとどまり、法的な基準ではありません。
そこで同学会は、こども家庭庁に対し以下の項目を求める方針を示しました。
・保育施設に吸音材を設置する際の費用助成
・認可保育所の開設ガイドラインに音環境への配慮を明記
制度として位置づけられれば、これまで園ごとの判断に委ねられていた音環境改善が、より進みやすくなると期待されています。

保育施設で使われる主な吸音材の種類
音環境改善と聞くと大がかりな工事をイメージされる方も多いですが、実は比較的導入しやすい吸音材も数多くあります。
● グラスウール系吸音パネル
もっとも一般的で、性能が安定しています。
天井・壁どちらにも施工しやすく、保育室・教室で広く使われています。
● 木質系パネル(有孔ボードなど)
ナチュラルな印象で、園舎のやわらかい雰囲気をそのままに吸音性能を高めたい場合に向いています。
● フェルト・布製吸音パネル
色や形のバリエーションが多く、遊戯室や絵本コーナーにも取り入れやすい素材です。
● 天井用吸音ボード
天井が高いホールなどで効果を発揮します。既存天井へ上貼りできるタイプもあり、工事期間が短く済むことも特長です。
これらを空間の使い方に合わせて組み合わせることで、反響を抑え、落ち着きのある保育環境をつくることができます。

音環境の改善は「保育の質」と「働きやすさ」に直結する
音の響き方が整うことで、子どもたちは言葉を聞き取りやすくなり、活動への集中も高まります。
保育士、教員にとっても、大声を出さなくてよくなるため負担が軽減され、保育そのものに向き合いやすくなるというメリットがあります。
結果として、園全体の雰囲気が落ち着き、保育の質の向上へとつながっていきます。
見えない環境にも配慮した、子どもにやさしい園舎づくり
今回の新聞記事は、音という目に見えない存在が、子どもたちの成長に少なからず影響を与えていることを改めて示していました。
採光や換気と同じように、音の【聞こえ方】にもぜひ目を向けていただきたいと感じています。
e-styleでは、園舎の構造やご予算に合わせ、無理のない範囲でできる音環境改善のご相談をお受けしています。ちょっとした工夫であっても、子どもたちの過ごしやすさは大きく変わります。
気になる点がございましたら、お気軽にご相談ください。



